ジュエリー全般に加え、商品画像の撮影や商品説明文作成(ささげ業務)のAI開発、部門開発にも精通。
宝石をインターネットで購入するとき、「写真と実物の色は同じだろうか」「画像が綺麗すぎるのではないか」と不安に感じたことはないでしょうか。
近年はAIによる画像生成・画像補正が急速に進化し、実物と見分けがつかないほど精巧な画像も作られるようになりました。しかし、美しい宝石画像を作ることと、実物の宝石を正確に再現することは、必ずしも同じではありません。
実はセルビーでは、生成AIが広く普及する以前から、大学との産学共同研究によって宝飾品画像のAI補正技術を研究してきました。本記事では、その経験を踏まえ、宝石画像の難しさと、オンラインでジュエリーを購入する際に知っておきたいポイントを図解で解説します。
- 宝石の写真が実物と違って見える主因は、光源・宝石内部の反射と屈折・撮影設定・表示端末の組み合わせです。
- セルビーは東海大学との共同研究で、熟練者の補正をAI(CycleGAN)で再現する手法を検証。2022年度人工知能学会全国大会で発表されました。
- AIは画像を「美しく整える」ことは得意でも、特定の天然宝石の色・内包物・輝きを正確に伝えることとは別の課題です。
- オンライン購入時は「複数角度の画像・動画・鑑別書・具体的な状態説明・返品条件」の5点を確認しましょう。
01宝石の写真はなぜ実物と違って見えるのか?
宝石の写真撮影には、一般的な商品の撮影とは異なる難しさがあります。バッグや時計などと比較しても、透明な宝石は内部に光が入り込み、屈折や反射を繰り返すため、その外観は撮影環境に大きく左右されます。
写真で変わりやすい4つの要素
色相・彩度・明度
光源の種類や撮影時の設定によって、実物と違う色合いになることがあります。
透明度
照明や反射によって透明感が強調されたり、逆に暗く見えたりします。
インクルージョン(内包物)
撮影角度や光の当たり方によって、見え方が大きく変わります。
輝き・光沢
静止画像では、宝石を動かした際の複雑な輝きを十分に伝えられません。
同じ宝石でも光源で色の印象が変わる
例えば、同じサファイアでも自然光と室内照明では色の印象が変わることがあります。また、ダイヤモンドでは撮影環境や露出によって、実物以上に白く、明るく見える場合があります。
色の印象は「撮影から閲覧まで」の各段階で変化する
02セルビーが取り組んだAI画像補正の産学共同研究
セルビーでは、宝飾品の商品画像をより適切に表現し、画像補正業務を効率化するため、東海大学との産学共同研究に取り組みました。その研究成果の一つが、2022年度人工知能学会全国大会(第36回)で発表された「CycleGANを用いた宝飾品画像の補正」です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文タイトル | CycleGANを用いた宝飾品画像の補正 |
| 発表 | 2022年度人工知能学会全国大会(第36回)/セッション 1O1-GS-7-02 |
| 公開 | J-STAGE(2022年7月公開) |
| 目的 | 撮影画像と、熟練者がPhotoshopで補正した画像との関係をAIに学習させ、同様の補正を自動で行うシステムの構築 |
研究の背景:宝飾品画像は「一般的な写真」より補正が難しい
論文では、宝飾品画像には独特の光や反射があり、一般的な風景画像などよりも高度で精密な補正処理が必要であることが背景として示されています。実際の現場でも、商品画像の補正は熟練者の経験と手作業に頼る部分が大きく、品質を保ちながら効率化することが課題でした。
CycleGANによる補正の仕組み
CycleGANは、画像の特徴を学習し、ある画像表現から別の画像表現へ変換する機械学習技術の一つです。「補正前の画像の雰囲気」から「熟練者が補正した画像の雰囲気」への変換を学習し、さらに逆方向にも変換して元に戻せるかを確かめる(サイクル一貫性)ことで、画像の構造を保ちながら補正を行う点が特徴です。
評価方法と結果
研究では、CycleGANを他の一般的な画像補正手法(低照度画像の補正手法など)と比較し、次の3つの指標で評価しました。その結果、CycleGANを用いた補正が評価指標上で良好な結果を示しています。また、補正前後の画像の位置ずれを揃える「画像の位置合わせ(レジストレーション)」の併用が有効であることも示されました。
PSNR
ピーク信号対雑音比。目標画像とのピクセル単位の差の小ささを示します。
SSIM
構造的類似度。明るさ・コントラスト・構造が人の見た目に近いかを示します。
Lab色空間での色類似度
人の色の感じ方に近い色空間で、色のずれの小ささを評価します。
研究で示された課題:背景や映り込み
背景の影やガラススタンド、光の反射などが画像変換を難しくする点は、特に後続研究の抄録で明示されています。2022年の研究で示された画像補正技術の有効性を踏まえ、その後は背景の影響を抑えながらジュエリー領域を補正することが研究上の課題となりました。
補正前・補正後の比較(研究素材)
セルビーでは、こうしたAI技術を活用した画像補正アプリケーション「AIPHOTEC」の開発にも取り組んでいます。研究と開発を通じて見えてきたのは、画像を美しく補正する技術と、実物の特徴を忠実に伝える技術の違いでした。評価指標上で「熟練者の補正に近い」ことと、「実物の宝石に忠実である」ことは、必ずしも同じ意味ではないのです。
2025年掲載の後続研究:背景・影・反射をどう扱うか
2022年の研究に名を連ねた仲川太陽氏と尾関智子氏は、その後も宝飾品の画像変換技術について研究を発表しています。後続論文「Jewelry Image-to-Image Translation with Consistency Regularization and Data Augmentations」は、画像電子学会の学術誌(Vol.12, No.2, pp.68–75)に掲載され、2025年4月25日にJ-STAGEで公開されました。論文本文は購読認証の対象ですが、抄録は閲覧できます。
この研究では、宝飾品の形状や色、背景の影、ガラス製スタンド、被写体と背景の境界、独特の光の反射などが画像補正の難しさとして挙げられています。背景の影響が強い画像を対象として、TC-ShadowGANのtarget consistencyや、BCR・DCRという正則化を伴うデータ拡張による補正精度の向上を検討しています。
実務者として研究開発に関わって感じたこと
セルビーでは、AI画像補正技術を応用したアプリケーション「AIPHOTEC」の開発にも取り組みました。筆者齊藤自身も、当時は慣れないPythonを学びながら、実務の立場から研究開発に関わったことを覚えています。
時計やバッグと比較して、宝石は透明度、複雑な色相、カットによる反射、個体ごとのインクルージョンなど、画像だけでは単純に処理しきれない要素があります。特に現物を知る担当者にとって重要だったのは、見栄えのよい画像が、必ずしも現物の特徴を正確に説明する画像とは限らないという点でした。これは当社の実務上の経験に基づく見解であり、各論文がすべての宝石種について検証したという意味ではありません。
03AIが進化しても宝石の再現が難しい3つの理由
2026年現在、生成AIの画像表現能力は大きく向上し、架空のダイヤモンドリングや実在しない美しい宝石を描くことも可能になりました。しかし、生成された宝石が美しいからといって、特定の天然宝石の外観を正確に再現できているとは限りません。
色を美しく見せることと、正確に伝えること
宝石には、わずかな色相の違いが価値や評価に大きく関わるものがあります。例えば、パパラチアサファイアのピンクとオレンジのバランスや、ルビーの赤色のニュアンスなどです。
画像補正によって色が鮮やかになっても、それが実物と異なれば購入者の判断を誤らせる可能性があります。
インクルージョンを消してしまう問題
天然宝石には、成長過程で形成されたさまざまなインクルージョンが存在します。これらは外観や品質評価に関わるだけでなく、場合によっては宝石の特徴を理解する手掛かりにもなります。
AIによる画像処理がこれらを不要なノイズと判断し、目立たなくしてしまう可能性もあります。見栄えを整えることが、必ずしも正しい商品表現になるとは限りません。
実物に存在しない輝きを作ってしまう問題
生成AIは非常に魅力的なジュエリー画像を作成できます。しかし、実在する商品を販売する場合、その画像には説明資料としての役割があります。
本来存在しない反射や輝きを加えてしまえば、購入者が受け取る印象と実物との間に差が生じます。宝石の販売においては、美しさと正確性の両立が重要なのです。
許容される補正・注意が必要な加工の目安
| 実物に近づける補正(一般的) | 実物との相違を生む加工(注意) |
|---|---|
| 撮影時の暗さ・露出不足の調整 | 実物以上に彩度・明度を上げる |
| 照明による色かぶりの補正 | 色相(ピンク/オレンジ、赤の色味など)を変える |
| 背景のホコリ・映り込みの除去 | 宝石内部のインクルージョンを消す |
| トリミング・傾きの調整 | 存在しない輝き・ファイアを描き加える |
04オンラインで宝石を購入する際の5つのチェックポイント
ジュエリーをオンラインで購入する際は、画像の美しさだけで判断せず、以下を確認することをおすすめします。
-
1異なる角度から撮影された画像があるか正面だけではわからない色味や内包物、形状を確認します。
-
2動画で確認できるか宝石を動かした際の輝きや色の変化を把握する参考になります。
-
3鑑別書やグレーディングレポートがあるか宝石の種類や処理の有無など、画像だけでは確認できない情報を補います。
-
4商品の状態が具体的に説明されているか透明度、内包物、傷、色の特徴などを確認します。
-
5実物を確認する方法や返品条件が明確か店舗での確認や購入後の対応条件を事前に把握します。
写真や商品説明に不明点があれば、購入前に販売店へ確認しましょう。セルビー公式オンラインストアでも、宝石の状態や鑑別情報について商品ごとの掲載内容をご確認いただけます。
05AI時代だからこそ、宝石を知る専門家の経験が重要になる
AIは画像処理だけでなく、文章作成や情報検索でも大きな役割を果たすようになりました。宝石についての解説記事も、短時間で大量に生成できる時代です。
しかし、実際の宝石を観察し、仕入れ、販売し、顧客から寄せられた疑問に答えてきた経験には、既存情報の整理だけでは補えない価値があります。
セルビーでは、宝石の画像補正にAIを活用する研究に取り組んできたからこそ、技術の可能性と限界の両方を認識しています。AIの進化によって業務が効率化されることは歓迎すべき変化です。その一方で、正確な商品情報を提供する責任までAIに委ねることはできません。
宝石を美しく見せることよりも、
宝石の本当の魅力を正しく伝えること。
それが、AI時代においても変わらない、ジュエリーを扱う専門企業の役割だと考えています。
FAQよくある質問
AIで宝石の写真を正確に再現できますか?
宝石の画像加工は問題ありませんか?
宝石の写真と実物の色が違うのはなぜですか?
AIで宝石のインクルージョンを消せますか?
ネットで宝石を買うとき何を確認するべきですか?
齊藤 孝蔵
- ジュエリー全般の実務に加え、画像撮影や商品説明文作成(ささげ業務)のAI開発から部門開発の方法論にまで精通。
- 公平な買取価格を常に提示し、業界全体の信頼性を守り高めることを使命としている。
参考資料
- 鎮野 智宏、仲川 太陽、石黒 大樹、細川 大意、押鐘 悠貴、尾関 智子「CycleGANを用いた宝飾品画像の補正」2022年度人工知能学会全国大会(第36回)論文集, 1O1-GS-7-02, 2022.
- Google検索セントラル:有用で信頼性の高い、ユーザー第一のコンテンツの作成
- 仲川 太陽・尾関 智子「Jewelry Image-to-Image Translation with Consistency Regularization and Data Augmentations」IIEEJ Transactions on Image Electronics and Visual Computing, Vol.12, No.2, pp.68–75, 2025. DOI: 10.11371/tievciieej.12.2_68(抄録無料・本文認証あり)
- Google Search Central:ウェブサイトで生成AIコンテンツを使用する際のガイダンス
- Google Search Central:生成AI検索に向けた検索最適化ガイド